涼しくて、気持ちのよい景色を増やす。
栃木県佐野市|住宅・店舗・事業所の外空間づくり
Coolscapeには、Green・Mist・Smartという3つの仕組みがあります。
前回のJournalでは、その中のGreenについて、植物を上層・中層・下層・地表という4つのレイヤーで考えながら、涼しさのある庭をつくってきた過程を書きました。
今回は、もうひとつの仕組みであるMistについて書いてみたいと思います。
Coolscapeのミストは、最初から今の形だったわけではありません。
「せっかくなら、雨水を使えないだろうか。」
そんなところから始まりました。
調べて、計算して、つくって、動かしてみる。うまくいったと思ったら、タンクに藻が出る。それを解決したら、今度はミストを止めても水が止まらない。
一つ解決すると、また次の問題が出てきます。
でも、不思議とそれが楽しかった。
「なんでだろう」と考えて、また少し変えてみる。そうやって庭で実験を繰り返しているうちに、最初に考えていたものとは少しずつ違うMistになっていきました。
今回は、そんなMistができるまでの話です。
最初に考えたのは、何の水を使うかでした。
ミストを自動化すると、暑い日は一日に何度も水を使います。もちろん、水道につないでしまえば簡単です。蛇口をひねれば、いつでも一定の圧力できれいな水が出てくる。
それでも、毎日庭に水道水を撒き続けることには、少し抵抗がありました。
水道料金がかかるということだけではありません。空から降ってきた水がすぐそばにあるのに、遠くから運ばれてきた水を使い続けることへの、ちょっとした「もったいなさ」のようなものです。
もともと私は、地域の中にある資源を、できるだけその地域の中で循環させることに関心があります。水も、そのひとつなのではないか。そう考えて、雨水からミストをつくってみることにしました。
もうひとつ、防災という理由もあります。普段は庭を涼しくするために使っている雨水も、地震などで水道が止まったときには、ミストを止めれば生活用水の一部として使えるかもしれない。
日常では涼しさをつくり、非常時には水を蓄えている。

そんな設備にできたら面白いと思いました。
そして、もうひとつ。これはかなり感覚的な理由なのですが、私は雨が降ったあとの匂いが好きです。
雨が止んだあと、土や植物からふわっと立ち上がってくる、あの独特の匂い。雨という自然の恵みを庭に貯めて、それがまた霧になって植物の間に戻っていく。
理屈より先に、単純に「それって気持ちよさそうだな」と思ったことも、雨水を選んだ理由のひとつでした。
雨水を使うと決めても、雨は水道のようにいつでも出てくるわけではありません。降る日もあれば、何日も降らないこともあります。
そこで最初にやったのが、計算でした。
屋根に降った雨のうち、どのくらいを集められるのか。一回の雨で、タンクにどのくらい水が入るのか。ミストノズルは、一分間にどれくらいの水を使うのか。一日に何回、何分間動かせばいいのか。そして、数日間雨が降らなくても使い続けるには、どの程度の水を持っておけばいいのか。
一つずつ机上で計算していきました。
やってみて意外だったのは、屋根に降る雨の量は、想像していたよりずっと多かったことです。
だからといって、大きなタンクを置けばいいわけでもありません。大きくすれば場所を取りますし、庭の中で存在感も出ます。そして、水を長く貯めすぎれば、今度は水質の問題が出てくる。
そこで、できるだけコンパクトにしながら、必要な期間をまかなえること。そして、使うことと雨が降ることによって、なるべく水が入れ替わっていくこと。
「たくさん貯める」のではなく、「循環させながら使う」。
そんな考え方で、タンクとミストのバランスを決めていきました。
次に探したのが、ミストノズルです。
ミストノズルといっても、調べてみると本当にさまざまです。細かな霧をつくるもの。たくさんのノズルから水を出すもの。高い圧力を使う業務用のもの。
その中でCoolscapeが重視したのは、家庭の庭で使うことを考え、安全性に配慮しながら、水道水と同程度の圧力でも細かな霧をつくれること。そして、屋外で長く使える耐久性があることでした。

いくつかのノズルを調べる中で選んだのが、国内で業務用途にも使われているノズルメーカーの製品です。耐久性も含め、屋外で継続して使うことを考えて選びました。
メーカーには雨水での使用についても相談しました。そこで聞いた話が印象に残っています。過去に、そのメーカーでも雨水を使ったミストを検討したことがあったそうです。
しかし雨水には、屋根から流れてくる砂埃や塵、有機物などが混ざります。それが細かなノズルに入り込むと、詰まりやメンテナンスの問題が出て、安定して使い続けることが難しくなる。
それが、雨水をミストに使う難しさのひとつでした。
そこで、雨水に含まれる異物をノズルに届く前にできるだけ取り除き、安定して使えるようにすることを考えました。
タンクの中で異物を分離すること。水を取り出す位置を工夫すること。そして、ノズルへ到達するまでに段階的に異物を取り除くこと。
具体的な構成はここでは割愛しますが、ひとつの部品だけに頼るのではなく、水が流れる過程全体で異物を減らしていくようにしました。
屋外で使う以上、雨だけでなく、湿気や振動、音も考えなければなりません。
ポンプは、必要な性能に加えて、住宅の庭で使うことを考えて静音性も重視して選びました。また、振動が箱や地面に伝わりにくいよう、設置方法にもあらかじめ対策を加えています。
必要な部品を一つずつ選び、加工し、組み立てる。実際に水を流しながら調整を重ね、春頃、ようやく雨水からミストをつくる仕組みが形になりました。
しばらくは、うまくいっていました。雨水がタンクに入り、ポンプが動き、ノズルからミストが出る。
「できた。」
そう思って一か月ほど使ったころ、タンクを開けてみました。
中が、緑っぽくなっていました。

壁面には膜のようなものが付着し、藻のようなものも見える。雨水の異物を取り除くことばかり考えていましたが、今度は貯めている間の水そのものが課題になったのです。
このままでは、いずれ配管やポンプへ入り込み、ノズルを詰まらせるかもしれない。そこで、また設計を見直しました。
光を入れない。水温が上がりすぎないようにする。タンクの中で水を滞留させない。そして、水質を維持するためのいくつかの方法を組み合わせる。
実際の状態を確認しながら、対策を重ねました。
その後も運転を続け、2026年3月の運転開始から現在まで約6か月。気温や水温が上がり、藻の発生が気になる夏も越えました。その間、タンク内の清掃は一度もしていません。それでも、当初のような藻が広がることはなく、ノズルが詰まることもなく、ミストは今も自動運転を続けています。
ようやく、雨水を使ったミストがひとつの形になったと感じました。

ただし、ここで試している雨水を使ったミストには、まだ確認していきたいことがあります。
「ノズルが詰まらず使えていること」と、「雨水をミストとして使うことの衛生面」は別の話です。
水道水を使ったミストとは分けて、雨水利用については水質や微生物の検証を続けていきます。その過程も、今後Journalで記録していきたいと考えています。
ノズルの詰まりの問題にも対策ができて、ひと安心。
……とはなりませんでした。
次に起きたのは、もっと単純な問題でした。
ミストを止めたのに、ノズルから水がポタ、ポタ、と出続ける。
原因を調べていくと、タンクの水面とノズルの高さの関係にありました。
タンクに貯まった水の水面より、ミストのノズルが低い位置にある。そのため、ポンプを止めても、高い位置にあるタンクの水が低い位置にあるノズルへ流れ続けていたのです。
少量とはいえ、一日中水が落ち続ければ、せっかく貯めた雨水を無駄にします。それ以上に気になったのが、植物でした。同じ場所に水が落ち続ければ、その周辺の土だけが常に湿った状態になります。
そこでまず取り付けたのが、逆流防止弁(チェックバルブ)でした。
この部品は、水を一方向にだけ流すためのものですが、弁が開くには一定の圧力が必要です。
ポンプが動いているときは、その圧力で弁が開いて水が流れる。一方、ポンプを止めた後に残る水の高低差による弱い圧力では、弁が閉じたままになるのではないか。
そう考えて配管に加えてみると、ポタポタはかなり改善しました。
でも、まだ少し出る。
完全には止まりませんでした。
だったら、圧力に任せるのではなく、もっと確実に水の流れそのものを止めよう。
次に加えたのが、電磁弁です。電気信号によって水の通り道を開閉する部品で、ミストの運転と連動して動くようにしました。
ミストが始まれば弁が開いて水が流れる。終われば弁が閉じて水が止まる。
これでようやく、ポタポタ問題もなくなりました。
こうして振り返ると、CoolscapeのMistは、机の上で一度設計して完成したものではありません。
使って、失敗して、原因を考えて、またつくり直す。
その繰り返しでできています。
そして、Mistの考え方を大きく変える出来事がありました。
庭木を植えに来てくれた造園屋さんが、しゃがんで作業をしていたときのことです。近くでは、アプローチに設置したミストが動いていました。
「これ、しゃがむと、すごく涼しいですね。気持ちいいですね。」
嬉しかった。
でも、その直後に別のことが気になりました。
「……しゃがむと?」
立っている自分は、そこまで感じていない。なのに、しゃがんでいる人は「すごく涼しい」と言っている。
なんでだろう。
その場でミストの当たり方を見ていて、ひとつ気づきました。
当時のノズルは、地面に近い位置から斜め上へ向けて噴霧していました。立っていると、ミストが届くのは主に脚のあたりです。
そのとき造園屋さんは長ズボンを履いていたので、立っていればミストが当たるのは、ほとんど肌が覆われている場所です。
ところがしゃがむと、同じミストが首や耳、腕など、肌が露出している場所にふわっと届く。
なるほど、ミストが当たる場所によって、感じ方がずいぶん違う。
そこで、ミストをもう少し高い位置から出してみることにしました。
そこで、地面に近い位置に設置していたミストはそのままに、3つ目のノズルを追加することにしました。
新しいノズルはポールの上部に設置し、人が立った状態でも、細かな霧が肩や腕の周辺へふわっと届く高さにしました。もちろん、近すぎれば濡れてしまいます。そこで、高さや距離、角度を調整しながら、ちょうどよい位置を探していきました。
こうしてできたのが、現在のポールミストです。

地面に近いミストは、打ち水のように地表面を濡らし、その温度を下げる。植物の周辺にも水を届けます。
一方、ポールミストは、細かな霧を首や腕などの肌にふわっと届け、人が直接涼しさを感じられる。
同じミストでも、地面へ届けるのか、人へ届けるのかで、使い方が変わります。
こうして、地表面を冷やすミストと、人が直接涼しさを感じるためのミストを、両方使う形になりました。
一方、テラスにもミストをつけることにしました。
ただ、ここでは少し考え方を変えて、水道水を使うことにしました。
雨水を使うことから始めたMistなのに、なぜ水道水なのか。
理由は、テラスではアプローチほど頻繁にミストを使わないからです。
雨水を使うためには、貯める、送り出す、異物を取り除く、といった仕組みが必要になります。一方、水道水なら、すでに加圧され、日常的に管理された水が供給されています。
使用頻度が低い場所なら、そのメリットを使った方が設備をシンプルにできる。
雨水を使うこと自体を目的にしない。
その場所でどう使うのかを考えて、適した方法を選ぶ。これも、実際につくって使ってみたからこそ、そう考えるようになりました。
テラスのミストは、頭上から降り注ぐように設置しました。
我が家には深い軒があり、ミストと室内との間には十分な距離があります。そこである日、窓を大きく開けてミストを動かし、ダイニングに座ってみました。
最初は、ほとんど動いていなかった空気。
ところが、ミストを動かしてしばらくすると、ふわっと、涼しく感じる風が室内に入ってきました。
ちょうどその日は、協力してくれている外構屋さんも一緒でした。二人で座りながら、その風を感じました。
面白かったのは、ミストによって空気の動きが目に見えたことです。
細かな水滴が光を反射するので、最初は下へ流れていた白い霧が、風によって横へ流れ、やがて室内側へ向かって動いていく様子が見えます。
止まっていたように見えた空気が動き、その動きをミストが見せてくれた。
これは、とても面白い体験でした。
いつかセンサーを使って、この現象も測ってみたいと思っています。
※室内に水滴が入り込まない距離を確保したうえで使用しています。風向きや設置環境によって水滴の届き方は変わります。
そして夏。
スマートフォンからミストを動かすと、子どもたちが反応するようになりました。
「ミスト出すよ。」

そう言ってスイッチを入れる。すると、頭上から一気に霧が出てくる。
子どもたちは「わーっ」と庭へ飛び出して、その下を走り回ります。もちろん、ずっと真下にいれば服は濡れます。でも、夏だから、それも気持ちいい。
ここまで、ずいぶんいろいろ試しました。
でも振り返ってみると、私はこの試行錯誤そのものを、かなり楽しんでいたように思います。
「こうしたらどうなるんだろう。」
そう思ったら、庭で試してみる。すると、また何かが起きる。
雨水をどう貯めるか。どうやって霧にするか。どうすれば詰まらないか。どの高さから出せば気持ちいいのか。
そんなことを繰り返した先で、子どもたちがミストの中を走り回っていました。
最初は、庭を涼しくしたくて始めたミストでした。
でも、その姿を見ていると、Coolscapeがつくりたいものは、単に「温度を下げる設備」ではないのだと思います。
植物が揺れる。水の粒が光る。風が通る。そして、人が外へ出ていく。
暑い日でも、外で過ごしたくなる。
Mistは、そのための仕組みのひとつです。